はや納入が決定
変速機用シャフトは複数の歯車をつなぐ鉄製の軸で、最大直径約十二センチ、長さ約六十センチが標準サイズ。大手メーカーによる従来製品は重さ約六キロ。初めて製造に挑んだ久保田鐵工所は約四キロと30%以上も軽い。
問い合わせは日米欧のメーカー合わせて十社に達する。「これまで部品を売り込んで回っていたが、今は向こうから商談に訪れる」。山中成昭取締役は予想以上の反響に驚く。
従来の中空のシャフトは、外側をプレス後、内側を別の機械で削っていた。それを一台の機械で、しかも一度に加工するには五方向からのプレスが求められてる。「一工程で五方向のプレスは、概念は理解できても実行する人はいなかった」と言う。
五つの金型を、材料に対しどんな順番でどれ程の圧力を掛けるかー。複雑な金型の動きを発案したのは、社内で「人間シミュレーター」と呼ばれる七十歳代のベテラン技術者である。山中取締役は「具体的な工程は企業秘密だが、金型に長く携った経験が複雑な金型の動きのアイデアを生んだ」と振り返る。
生き残り懸ける
同社の主力はエンジンを冷やす鉄製のウォーターポンプ。だが一九九〇年代半ば、危機感が高まっていた。「自動化が難しい工程の多い機械加工は、どうやっても中国や東南アジアの製造コストに勝てない」
持ち前の金型技術を生かせる生き残り策として着目したのが、金属を常温のまま高圧で加工する「冷間鍛造」だ。同社では初めての分野。二〇〇二年、取引のある広島県内の部品メーカーなど十一社と研究会を設立し、基礎技術を研究した。
冷間鍛造は、精度の高い加工が複雑になり、プレスの方向が増えれば難易度はさらに増す。こだわったのは軽量化だ。ガソリン価格の高騰や環境意識の高まりから、自動車メーカーは燃費向上や排ガス低減にしのぎを削っている。車を軽くすれば燃費があがり排ガスも減る。「金属部品を軽くすれば用途は広がる」と山中取締役は確信していた。
五方向からプレスする装置により、十八秒に一回、一工程で内側にも穴を開けることができる。しかも中空をできるだけ大きくでき、大幅な軽量化が可能となった。
シャフトには航空機関連の技術者や船舶、農機具メーカーも関心を示している。「将来は自動車以外の部品にも応用したい」。半世紀を超す金属加工の経験を生かし、金属部品に新たな可能性を見いだしている。